『⑯諷意茶譚  初釜は稽古始め』
                                                      七重誠治

 正月も20日を過ぎると初釜も絶え絶えになる。今年は暦の巡り合わせが悪い。元旦が木曜日、最初の日曜日が4日でサラリーマンはお休み中、結局次の日曜日の11日か翌12日の成人の日辺りが初釜のピークとなる。茶の湯の先生方は弟子を招くにあたってこの日取りを決めるのに苦労する。こうした時、落ち目の先生は苦しい。勢いのある先生に客が流れてしまうからだ。 
 プロの茶道家にとって初釜は一年の行方を占う上で大切な行事である。御祝儀の金高に影響するからだ。普段の指導の仕方、人柄、人間力と言った人徳が諸に出る。従って営業は欠かせない。かといってむやみに招待状を出すのも顰蹙を買うことになる。
 各宗家の初釜は7日から12日までがピピーク。裏千家の初釜式は京都本部と東京道場で披かれた。名古屋地区の同門社中は東京道場の方である。
 初釜とはどんな行事なのか? 詳しくは分からないが、本来は炉開きの11月と並んで茶道教室の稽古の一還という意味合いがあるようだ。初釜はさしずめ稽古始めと言うことか。床の間を蓬莱飾りし一年の健康と幸せを祈り同時に稽古の上達を願うというもの。稽古始めと言うと京都では芸伎さんはじめ舞妓さん、その他の芸事は12月13日であるらしい。ただし本来は旧暦12月13日であったはずが今日では新暦12月13日に行っている。明治維新後日本の暦が太陽暦になった為の仕業である。これに慣らされた国民は誰も疑問を挟まない。因みに12月13日を旧暦に直すと年を越して2月1日になる。昨年は閏月で9月が2回あったため遅いのだ。もうひとつ、赤穂浪士の討ち入りは元禄15年12月14日。現代では年末の出し物の定番である。実際この事件は旧暦元禄16年(1703年)1月30日であった。今年は、この日の旧暦は2月2日になる。 
 旧暦、すなわち大陰暦は約355日を一年とするから3年で調節しなければならない。これが閏月。 
 旧暦1月・2月・3月は春である。10月・11月・12月は冬、7月・8月・9月は秋。8月の満月を中秋の名月という。これが9月が2回となれば、7月・8月・9月・閏9月となる。こんなわけで昨年は中秋の名月が2回あったというわけ。
 話を元に戻そう。新暦の稽古始め(12月13日)が今年は旧暦2月1日であるが因みに来年は1月22日になる。このように新暦に慣らされた現代人は戸惑うことになる。これを新暦に統一して正月として固定してしまえば分かりやすい。
 初釜は茶道会の稽古始めと解釈するなら、明治維新後、新政府が決めた大陰暦(旧暦)から太陽暦への変遷から生まれた正月行事なのだ、と解釈できる。
 今年も各界の著名人が道場に集い一日限りの弟子になった。教室であるかのようで実は茶の湯を以ておもてなしをする賀詞交換会でもある。
        
                 「淡交誌より」
                       
                 2015年2月14日
                                                     (六敬庵主人
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